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2012年8月15日水曜日

びまん性肺疾患のVATS適応

良く知られているように、IPFとOP以外の間質性肺炎を診断するためには、VATSが必要となります。しかし、実際にはVATSが行われる症例は限定され、当院では年間数人です。今回はVATSの適応について書いてみたいと思います。

VATSの適応は、特発性であれば典型的IPF以外と言うことになります。この「典型的」というのが難しく、蜂巣肺があるだけではダメでしょう。

1. IPF以外と考えられる症例
2. 上葉優位な陰影
3. すりガラスが目立つ例
4. 粒状影が目立つ例
5. BALでリンパ球や好酸球分画の上昇がある例
6. 肺野先行型膠原病が疑われる例
7. 将来的に肺移植の適応になりそうな若年例

これらはVATSの適応があると思います。
逆にVATSの適応がないのは、

1. 典型的IPF
2. 明らかな薬剤性肺障害
3. 放射線性肺障害
4. 高齢やPS低下例
5. 皮膚筋炎に合併したDADと思われる例
6. 病状が進行しない症例

こんなところでしょうか。4.に関しては、何歳までとの明確な基準はありませんが、少なくともVATSの結果次第で治療導入する例以外は、適応無しでしょう。5に関しては、早急な治療導入が必要とのコンセンサスが出来つつあります。他、膠原病関連間質性肺炎のVATSについては、原則不必要かもしれません。当たり前ですが、6.も重要です。いきなりVATSを考えるのではなく、しばらく経過を見て判断することも大切です。

VATSは実験的医療
VATSは実験的医療であると、私は思います。少なくとも、標準的医療ではありません。なぜか? それは、VATSが施行できる施設が限られること、それを診断できる病理医が限られること、そしてもう一つ、結果を解釈できる呼吸器内科医が限られるからです。

VATSの結果は診断名ではない
外科的肺生検の病理レポートには色々なコメントが書いてあり、最初あるいは最後に総合病理診断が書かれています。病理所見についての羅列であれば、病理医間での診断に大きな違いはありません。しかし、それを「総合的に判断」することでかなり大きなバラツキが生まれます。ある病理医がNSIPと診断したにもかかわらず、別の大家はUIPと判断した。その背景には、それぞれの病理医の解釈の違い、そして診断哲学の違いがあります。なので、私はそのコメント内容から、臨床経過そして画像所見を合わせ、自分としての総合判断を行う様にしています。もちろん、可能であれば画像診断医、病理医、臨床医のディスカッションが理想ですが、それが行える症例はむしろ少ないのが現実です。

「君が必要と思うこと、それがVATS適応」
今から10年以上前のこと、呼吸器内科医として専門性に目覚め始めた頃に、尊敬する大先輩に「どういう症例にVATSを勧めるのでしょうか」と質問したことがあります。

「VATSの適応は本当に難しい。一つ言えることは、主治医である君がVATSが必要と思った症例、それは適応だよ。」

非常に重い言葉です。この言葉の裏には、びまん性肺疾患に対する理解と経験が要求されています。しかし、当時の私はこのことを理解していませんでした。私はこの言葉に後押しされ、以後勉強を続けています。そして現在、後輩からVATSの適応を聞かれると、大先輩と同じ答えをしてしまいます。

悩んだら専門家にコンサルトを
CTをみて、「ハイ、間質性肺炎。肺線維症でしょう。治療はありません。」と、即断してはいけません。IPFにステロイドと免疫抑制剤が使えなくなった今、この見極めはとても大切です。
もし少しでも「典型的IPF」でないと思われた場合は、専門家へコンサルトすることをお勧めします。

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