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2012年5月30日水曜日

手を握ること

白状します。私は末期の癌患者さんの病室に行くのが嫌いでした。医師として患者さんを治すこと、何か治療をすることが大事だった私には、自分が何も出来なくなった末期癌患者さんの回診は、自分の無力さを痛感する場所だったのです。



緩和ケア病棟にて
そんな私を変えたのは、大学での基礎研究生活で貯まった臨床への餓えと、その時に見学に行った聖路加国際病院緩和ケア病棟での光景でした。当時すでに有名だった林章敏先生の診療を見学させてもらったのです。緩和ケア科の先生方は、回診時に持ち運び可能なイスを持っていきます。そして患者さんのベッドサイドに座り、話をしつつ診療されていました。痛いところがあれば体のあちこちを触っていました。中には心を閉ざし、先生が話しかけてもほとんど返事をされない方もみえました。そんな時、先生は手を握っておられました。


手を握ること、体に触れること


臨床の現場で
研究生活を終えて大学病院で臨床を再開し、更に今の病院に赴任して、たくさんの癌患者さんをみてきました。この間に緩和ケアが重視されるようになり、厚労省もその教育と普及に力を入れるようになりました。私達が末期癌患者さんに出来ることが、少しですが増えたのです。それでも、彼らの命を救えないことは変わりありません。「後は死を待つのみ」、そんな状況になることもしばしば経験します。

そんな患者さんに、私は手を握ります。ベッドサイドに行って声をかけ、そして手を握ります。ほとんどの場合、向こうから握りかえしてきます。驚くほど力強く握りかえしてきます。せん妄状態の場合でも同じです。時には、向こうから手を差し出してきます。そんな時は、いつもより力を入れて握ります。

トラブルになりそうだったあの時
以前に、私と患者さん家族との間にトラブルとなりそうな時がありました。そんな時、病室には行きたくないものです。しかし、足が遠のいてコミュニケーション不足となれば、更に関係が悪化します。こういう時は、いつもより回数多く通うことが大事です。そして、私は手を握りました。患者さんも手を握りかえしてきました。その時はせん妄状態だったのですが、話しかけてくる些細な内容に答えていました。それを見ていた家族から、緊張感が消える雰囲気を感じました。

今回の内容はまとまりのないものになってしまいました。
私のこれまでの経験から、学んでもらえることがあれば嬉しいです。

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