2011年に呼吸器学会よりガイドラインという形でいきなり登場したNHCAP。ガイドライン中には、Nippon版HCAPとか書いてあったりしますが、今ひとつピンとこない感じがあります。今回はこの話題に挑戦してみます。
誤嚥性肺炎
もともとNHCAPとして強く意識していたと思われるのは、いわゆる「誤嚥性肺炎」ではないでしょうか。この「誤嚥性肺炎」というのは、欧米での「aspiration pneumonia」とは異なり、高齢者医療に手厚い我が国独特のものではないかと思われます。そのため、これを定義するのが非常に難しい。ADLが自立していても、よく調べたら誤嚥していたというケースは経験するでしょう。ADLの低下した高齢者・障害者の肺炎、そう割り切っているのがこのガイドラインです。
NHCAPとCAP
NHCAPはCAPの一部とHCAPを複合したものです。従来であればCAPと判定さていた自宅から入院する誤嚥性肺炎をHCAPとして取り込むことが、今回のガイドラインの目的の一つであったと書かれています。私達は2010年3月~12月に多施設共同の観察研究で、入院を要する肺炎を全例前向きに集めました。このうち当院症例をレトロにADL評価し、NHCAP判定を行ってみました。するとNHCAPのうちCAPは21.7%、HCAPは78.3%でした。逆に、従来のCAP判定群中28.2%がNHCAPと判定されました。これらの割合は当然施設毎に大きく異なるでしょう。
C群がキモ
次にNHCAPと判定された群の治療区分についてみてみました。B群と判定された症例はNHCAP全体の30%を占め、約90%がその後に出されたNHCAPガイドラインに準拠した治療が行われていました。一方C群と判定された症例は68%にのぼりましたが、ガイドライン準拠治療は7.9%しかいませんでした。つまり、NHCAPガイドラインのキモは、C群=耐性菌リスクのある症例に対する治療となります。これに意味があるのかどうか、検証しなくてはいけないでしょう。
DNRオーダー
そしてもう一つ大切なことは、NHCAPの多くのケースで人工呼吸管理などの積極的治療を希望されないという事実です。先ほどの当院NHCAP症例では、実に62.0%にDNRの方針がとられていました。そういう患者さんだからこそ失敗は許されないと考えるのか、それともこれらの方々にカルバペネム系をはじめとした広域抗生剤使用に躊躇するのか。このガイドラインは、私達に臨床医としての哲学を問うものでもあるのです。
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